あるアメリカのロック評論家がパーシー・スレッジ(Percy Sledge) の<When a Man Loves a Woman>(「男が女を愛する時」) を評してこう書いていた ―― 「スレッジはこの曲にマッチしていない。それに、そもそもこの曲には、真にマッチする人間の声がない」。すぐれた音楽は、それが最初に作られた当初の時間と場所を越え、何十年も後方の新しい聴き手に届く。それと同時に何十年も以前からの古い聴き手にも。けれども楽曲自体があまりに広大、深遠、完璧すぎて、そこに加わるどんな歌唱ももはや一体にはなれないという音楽は、古い聴き手の一人としては、差しあたって他に1つしか浮かばない。
プロコル・ハルム(Procol Harum) の<A Whiter Shade of Pale>(「青い影」) はイギリス出身の6人組である彼らのデビュー作にして最高作であり、当初から現在に至るまで様々なアーティストにカヴァーされ続けている最も世界的に有名な1967年のヒット曲であるが、このひときわ流麗で奥深い音楽を初めて耳にしたとき以来、ヴォーカルのゲイリー・ブルッカーの声が微妙に曲にそぐわない感じをもっていた。<青い影>は時間を越え場所を越えてその都度高らかに、雄々しく、そして何よりも謎めいて響き続けてきたが、その間ずっと、この曲には真の意味でマッチする声がなかった。とにかく、自分はそれを見つけられなかった。