REVIEWS

topten_2011
Bookmark and Share

1. RIZ ORTOLANI<OH MY LOVE>featuring KATYNA RANIERI (『DRIVE』サウンドトラック収録、1971年録音)。
3月末から日本公開になるこの映画で、この曲は映画自体の逃れられないブラックホールとして現れる。人生で初めて信頼すべきもの=出所間近の夫を持つ隣の部屋の女性、に遭遇した運び屋&逃がし屋の生活を送る『ドライバー』(ライアン・ゴズリング) が、その信頼と愛情の貫徹に向けて全てを投げ打ち、意を決して男の所に向かい、車に乗り込む場面でこの曲は流れる。それからの数分間、映画は一切の言語をこの曲自体の貫徹のために中断、放棄し、画面上を映像でなくその音楽のみが制御し、この映画はその音楽の中から直接に生まれてきていたのではないかと観客が信じ切るほどに、映画そのものを支配する。フェリーニ映画でヨーロッパに広く知られるカティーナ・ラニエリの歌唱は、真夜中の漆黒の太陽として観客と映画に降り注ぎ、夫であるリズ・オルトラーニの端正なアレンジによって、ちょっと他には類例がないような威厳をもって<MY WAY>に近づき、交差し、以後は永久に離れる。劇場を出たあとに「この映画は何なのか」とさっき更新したばかりの新鮮な記憶に向かって人々が問う時には、その音楽はもう存在しない。その記憶には<OH MY LOVE>のブラックホールの重力があるだけであり、何かとてつもないものを見聞きした証拠として、その重力は観客の心に留まる。醜悪と甘美、創造と日常、暴力と抱擁、邂逅と嗚咽、現実と非現実が混ざり合い、どこから手をつければ良いのかはっきりさせるにはもう一度あの曲を ――、そう結論づけるより他に、観た者には選択の余地がなくなる。


2. TIM BERNE / NELS CLINE / JIM BLACK 『THE VEIL』。
ライヴ収録されたチャーリー・パーカーからレッド・ツェッペリンまでの、この即興ごった煮ジャム音楽が、歴史のごった煮のように感じられた年である2011年に発売されたのは、ただの偶然なのだろうか。


3. PONYTAIL 『DO WHATEVER YOU WANT ALL THE TIME』。

ボルティモアの4人組による年齢不問な少年たちの原始かつ未来な自己啓発で、そこでは「アー」とか「ウー」といった言語以前の発声が、街の玄関の1つ1つをノックして回る。


4. THUNDERCAT 『THE GOLDEN AGE OF THE APOCALYPSE』。
夭折の天才ベーシスト、ジャコ・パストリアスの再来との呼び声高きソロ・デビュー。違うと思う。ここに聴こえる警鐘ファンクの豪華絢爛さは、既知を用いながらも未知を感じさせる。


5. POINT JUNCTURE, WA『HANDSOME ORDERS』。
バンド名にあるワシントンでなくオレゴン州ポートランドで共同生活を送る男性4人+女性1名。ドラムス兼ヴォーカルのアマンダ・スプリング(素晴らしい名前!) がそのドラムスとヴォーカルの双方で、フロントに陣取る4人のハーモニーとともに、アルバムの題名にかなり近いことをやっている。


6. AM & SHAWN LEE『CELESTIAL ELECTRIC』。
コラボレーションの英米ワンタイム・デュオによる、この中央に位置すべき郊外エアリー・サウンドは、通り過ぎる風を一時的に風だと感じさせなくする。代わりに感じるのは通り過ぎるとは限らない知らせ、ニュースである。過ぎて行った検印済みの出来事でも、まだ起きてもいない絵空事でも。


7. GRETCHEN PARLATO 『THE LOST AND FOUND』。
ジャズ・シンガーはこう歌わねばならない、という積年の黄金則からの委任状。


8. CAROLINE SULLIVAN『BYE BYE BABY: My Tragic Love Affair With the Bay City Rollers』 (2002年、再発売)。
現在はロック・ライターである著者が10代後半の4年間を狂わんばかりに愛したベイ・シティ・ローラーズの追っかけに捧げた回顧録。よくあるファン日誌、グルーピー日記のようで全くそうではなく、ラストカットに至るまで良く練られた上等なコメディ映画の質感。読者は本を閉じたあとで考える:彼女がこのクレイジーな4年間にぶつけたものの実質は何だったのか。特定のアーティストや他の何かを尋常でなく好きになったことのある人、その事で自分がある程度実際に変わった自覚を持つ人すべてに読む権利と価値のある1篇。邦訳は出ていない。


9. 『NOAM』 。
イタリアのフォーク・ロック。 ナポリからブラジルに飛んでセウ・ジョルジとムタンチスに巡礼し、北上してアメリカでヴェルヴェット・アンダーグラウンドの3rdとヨラテンゴを買い求め、帰路の途中で日本に立ち寄って『はっぴぃえんど』を忘れずに揃えれば、といったサウンド。イタリア語で歌われるイタリア語のタイトルの中、1曲だけ英語タイトルの<Fortune Cookies>。曲中サビのこの2言だけがイタリア語に混じって英語のまま歌われる。フォーチュン・クッキー=アメリカやドイツなどの主に中華料理レストランで供されるおみくじクッキー。ここでは少なくとも中吉以上のサウンド。


10. 吉田美奈子&渡辺香津美 <Eleanor Rigby> (アルバム『NOWADAYS』より、2008年)。
ここで2人はビートルズの古典曲にオリジナルとは別種のものを見出している。ブルーズ。吉田美奈子のうねる低いヴォーカルが伝えないものを渡辺香津美の静動2種のギターが補完し、そのギターの後ろでさらに彼女がうめく。この音楽の枠の中では、呪縛と解放が同じものであるかのように聴こえる。

中野利樹 (TOSH NAKANO)🍀

Terms of Use, Copyright © 2017 The Art of Listening. All Rights Reserved.








▲ back to TOP ▲
inserted by FC2 system