劇場を出たあとに「この映画は何なのか」とさっき更新したばかりの新鮮な記憶に向かって人々が問う時には、その音楽はもう存在しない。その記憶には<OH MY LOVE>のブラックホールの重力があるだけであり、何かとてつもないものを見聞きした証拠として、その重力は観客の心に留まる。醜悪と甘美、創造と日常、暴力と抱擁、邂逅と嗚咽、現実と非現実が混ざり合い、どこから手をつければ良いのかはっきりさせるにはもう一度あの曲を ――、そう結論づけるより他に、観た者には選択の余地がなくなる。
2. TIM BERNE / NELS CLINE / JIM BLACK 『THE VEIL』。
ライヴ収録されたチャーリー・パーカーからレッド・ツェッペリンまでの、この即興ごった煮ジャム音楽が、歴史のごった煮のように感じられた年である2011年に発売されたのは、ただの偶然なのだろうか。
4. THUNDERCAT 『THE GOLDEN AGE OF THE APOCALYPSE』。
夭折の天才ベーシスト、ジャコ・パストリアスの再来との呼び声高きソロ・デビュー。違うと思う。ここに聴こえる警鐘ファンクの豪華絢爛さは、既知を用いながらも未知を感じさせる。
5. POINT JUNCTURE, WA『HANDSOME ORDERS』。
バンド名にあるワシントンでなくオレゴン州ポートランドで共同生活を送る男性4人+女性1名。ドラムス兼ヴォーカルのアマンダ・スプリング(素晴らしい名前!) がそのドラムスとヴォーカルの双方で、フロントに陣取る4人のハーモニーとともに、アルバムの題名にかなり近いことをやっている。
6. AM & SHAWN LEE『CELESTIAL ELECTRIC』。
コラボレーションの英米ワンタイム・デュオによる、この中央に位置すべき郊外エアリー・サウンドは、通り過ぎる風を一時的に風だと感じさせなくする。代わりに感じるのは通り過ぎるとは限らない知らせ、ニュースである。過ぎて行った検印済みの出来事でも、まだ起きてもいない絵空事でも。
7. GRETCHEN PARLATO
『THE LOST AND FOUND』。
ジャズ・シンガーはこう歌わねばならない、という積年の黄金則からの委任状。
8. CAROLINE SULLIVAN『BYE BYE BABY: My Tragic Love Affair With the Bay City Rollers』 (2002年、再発売)。
現在はロック・ライターである著者が10代後半の4年間を狂わんばかりに愛したベイ・シティ・ローラーズの追っかけに捧げた回顧録。よくあるファン日誌、グルーピー日記のようで全くそうではなく、ラストカットに至るまで良く練られた上等なコメディ映画の質感。読者は本を閉じたあとで考える:彼女がこのクレイジーな4年間にぶつけたものの実質は何だったのか。特定のアーティストや他の何かを尋常でなく好きになったことのある人、その事で自分がある程度実際に変わった自覚を持つ人すべてに読む権利と価値のある1篇。邦訳は出ていない。