REVIEWS

top10_2010
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2010年は個人的には、日本の実質的な終わりの始まりが始まった1年に感じられた。ウィキリークスではないが、今年は、これまで全く思ってもみなかったような事柄が大きく動くのではないだろうか。良くも悪くも。または悪くも悪くも ? とにかく何かが「第2波」として訪れるのが2011年であるように思える。そんな中で、日々キラリと光る楽しみを見出そうとするアート・オヴ・リスニングの2010年トップ10は以下の通り。あなたのトップ10は ?


1. SUPERFLY <WILDFLOWER>(シングル、PV、ワーナー・ミュージック)。
この曲が発売された2010年の9月1日以降今日まで、これを聴かなかった日は、多分4日しかなかった。耳にするたび、4分26秒の飛翔詩が抱える静止と正視の両腕に、自分の耳はどう飛び込んだのかと詰問を迫られる。この曲における越智志帆は、歌う行為のついでにさらっと歌詞を書いているのではない。言葉が醸されるために歌う。息をさせ、水をやり、醸された言葉を生き永らえさせるために歌う。適切なシンガーならばそうせざるを得ないということを、当の楽曲自身が求める。この音楽には賞味期限も耐用年数も、減価償却費もない。ちゃんと値段が付いて売られているのにだ。なぜそう感じるのか ―― それを突き止めるために、明日もこの曲をかける。


2. JOHN LEGEND & THE ROOTS『WAKE UP !』 (SONY)。
もうひとつ、何かが足りない感がずっとあったジョン・レジェンドだが、このROOTSとのカヴァー物コラボ作で、ようやく本領を発揮した。ここ数年で最高のソウルの宝石。それとともに、カーク・ダグラスのギターの音は聴く者のソウルを、ピンではなくピックで釘づけにする。


3. BRUCE SPRINGSTEEN & THE E STREET BAND『NO PRIVATE PARTY - ROXY 1978』(ブートレッグCD、EV2)。
彼の生涯最高のライヴのひとつが、過去最高の音質で再発売された。1978年7月7日、ロサンゼルスのROXY。スタジオ版を無用にする2曲 ――<PROVE IT ALL NIGHT>の長いイントロの迷宮、続く<RACING IN THE STREET>エンディングの、物事がすべて一斉に遠く消え去っていく描写、儚き事象としての「終わり」という美と苦さを忘れはしない。


4.『MARNIE STERN』(Kill Rock Stars)。
自主規制と自己検閲。それはあらゆる可能性の扉をみずから閉じてしまう甘い罠である。そこからの解放を実践しようとする(ポスト・)ポストロック。


5. GIRL TALK『ALL DAY』(Illegal Art)。
窒息するほどソニック。とにかくマッシュ・アップだらけ。あなたは何曲正解 ? 全貌を完全攻略したい人は http://mashupbreakdown.com/ へ。



6. 菊地成孔 <退行> (iTunes 配信限定シングル、のちにアルバム『戦前と戦後』に収録)。
窒息するほどエロティック。とにかく、デカダンスだらけ。


7.『ミュージック・ポートレイト: 人生が1枚のレコードだったら』 (NHK教育TV、松任谷正隆、姜尚中)。
バーのカウンターに並んで座り、人生の10曲をそれぞれ披露し合う、この音楽原体験・追体験のお試し対談企画、今後もぜひ継続してほしい。やれるのはNHKだけなのだから。あなたの10曲はどれ ?


8. 映画『KNIGHT & DAY』(『ナイト・アンド・デイ』、トム・クルーズ、キャメロン・ディアズ主演、ジェームズ・マンゴールド監督、20世紀FOX)。
大した映画ではないものの、10年前の『VANILLA SKY』同様、このペアは相性がいい。そしてこの映画は、大英帝国007=ジェームズ・ボンドに対する合衆国的回答として観ることができる。エンディング近く、メキシコに行こうというくだりで、キャメロンがトムにクリストファー・クロス(CHRISTOPHER CROSS)の<RIDE LIKE THE WIND>( 『風立ちぬ』「and I got such a long way to go / to make it to the border of Mexico...」=「目指すメキシコ国境までは / まだまだ長い旅さ」) をかける場面がいい。


9. コニー・ウィリス『マーブル・アーチの風』 (早川書房、2008年)。
コニー・ウィリスは幾多の文学賞を手にしたSF・近未来小説の大家だが、この日本オリジナル短編集では、同時にアーティストにも、預言者にもなる。松尾たいこ氏の装丁も秀逸。


10. BLACK KEYS『BROTHERS』(Nonsuch) & "MORNING BECOMES ECLECTIC" (スタジオ・ライヴ、KCRW-FM) 。
失敗作のないオハイオのデュオの、ブルーズのような、サイケのような、ソウルのような、ロックのような濃密なタイムトリップ。タイムスリップではない。スタジオ版そのままの、ライヴでの極上の演奏力にも悶絶。アナログよ永遠なれ。


plus one:
11. DAVID LYNCH <GOOD DAY TODAY / I KNOW> (Nonsuch)。
リンチの歌手デビュー。<GOOD DAY TODAY>はローリー・アンダーソンの<O SUPERMAN>を、<I KNOW>は自身の映画『TWIN PEAKS: FIRE WALK WITH ME』(『ツイン・ピークス: ローラ・パーマー最期の7日間』、1992年) または『MULHOLLAND DRIVE』(『マルホランド・ドライブ』、2001年) 中のシークエンスを思わせる出来栄え。

中野利樹 (TOSH NAKANO)♠

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