<TELSTAR>はミークにとって、長年抱いてきたその音楽的野望を叶える千載一遇のチャンスだった。彼は借りていたロンドンの3階建て自宅アパートである晩、簡素でありながら奥深くもある、叶わない2つの事を同時に実現させるかのような天与のメロディを受け取る。作詞も作曲も演奏もしないミークは、その千載一遇のメロディを忘れないようにと、その時自分の身体の一番近くにあった「書き留める事の出来る物」=灰皿のタバコを置く端部分に殴り書きし、そのあと自宅内の粗末な手作りスタジオのテープレコーダーに急いで録音した。自分の声のハミングで。その時の実際の録音=粗末な天与の瞬間を元にした最初期のデモ音源である、我を忘れた彼の有頂天のハミングが2005年発売の『PORTRAIT OF A GENIUS』(ある天才の肖像) で聴ける。まるで地上を駆けめぐる白馬に乗った泥酔堕天使のように得意満面でやけくそで、何より楽しげなジョー・ミーク。天の助けを借りながら、彼は晴れて<TELSTAR>を「作曲」したのだ。