それは多分、その音楽が異星人のコンタクト暗号のように「ろ・っ・く」と喋っているからであり、それ以外のことは何も言っていないように感じられるからだ。その1点のみに彼らが没頭集中しているように聴こえるからである。『Is This It』が『Nico』や『The Doors』と肩を並べるものであるかどうかの判断は、いずれ誰かがするだろう。MODERN AGE ―― そのサウンドの歩幅はヴェルヴェッツの3rdアルバム『The Velvet Underground』からの<Beginning to See the Light>の革新と覚醒をもう1度呼び覚まし、MODERN AGEというその題名は同様に、ヴェルヴェッツ最終作『Loaded』中の<New Age>の先見を強く思い起こさせるが、肝心なのはその歩幅の重心が後ろでなく真ん中でなく、前足の側にかかっているということである。
「十人十色 / 人の数だけ / 生きざまだってちがうさ」(DIFFERENT STROKES FOR DIFFERENT FOLKS) とスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン(Sly & the Family Stone) がかつて謳ったように、人々はすべて、結局は互いに別々の人生を送っていかなければならない。けれどもその別個の人生は、ある時ふとしたことで思いがけず1つにつながって感じたりするものだ。ジョン・レノンの騒々しい死、ジョージ・ハリスンの静かな死、アメリカの911の後のしばらく、そして近年のマイケル・ジャクソン、日本の311の後のしばらく、デヴィッド・ボウイ、プリンス…。
もちろん他にも沢山ある。『Is This It』は、気が乗らなければ単調で面白味のないものに聞こえるかもしれない。けれども、その乗らない気分でさえもがストロークスの放つ日常のビートの一期一会に暗に含まれているのだとしたら、人はそのアルバムを聴いて1つになれるかどうかを問う前に、その一期一会自体を、以前よりさらに身近に感じることになるはずだ。63年のリヴァプール、68年のニュー・ヨーク、77年のロンドンがそうであったように。ストロークスが繰り出すモダン・エイジの敢然たる響きの一撃(ストローク) は、今も『Is This It』を聴く人たちの心の耳を鳴らしている。何度鳴ってもそれが初めてであるかのように、その度にこれが最後の1回なのだと、彼らだけが知りながらプレイしているかのように。