<Stolen Car>の声とサウンドに、一般的な音楽上の慰めはなかった。主人公が経験する幸福と挫折のメロドラマは、それを聴く者の涙を誘いはせず、ただ聴く者の注意を、特別な耳のそばだてを誘ったのだ。「この暗闇の中に
/ 消えていこう」。 I WILL DISAPPEAR ―― 決して実現はしないその無力の WILL が、直後の DISAPPEAR に冷徹に呑み込まれ、暗闇の真ん中で力尽きる。あたかも主人公には、ついに言葉の自由さえも許されなくなるかのようにだ。そのあと曲はまだ続くが、そこにはもう、彼自身の出口はなかった。そもそも彼は、入り口からそこに入ったのではない。本当に主人公が消えていけるのはその黒い夜ではなく、まだ見ぬ青白い朝もやの中である。それまで彼はただ、ずっと走るしかない。盗んだ車を、そのままずっと、盗み続けるしかない。