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lonely_boy
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アンドリュー・ゴールド(ANDREW GOLD) の<LONELY BOY>は1977年の春にビルボードのシングル・チャート7位を記録した、彼にとって唯一のトップ10ヒットだった。さらにもっと上位まで行ってもよかったくらい、ラジオで頻繁に耳にしていた記憶がある。

教育熱心な両親を持ちながらも、何よりも「人にバカにされないような子」になることを第一義に育てられたロンリー・ボーイ。「おまえはたった1人の息子だよ」と言われたその2年後、妹の誕生により両親の愛情が移動、「たった1人って言ったのに」と悲しくて泣き叫んだロンリー・ボーイ。16のときに家を出て「父さん母さん、何とか1人でやっていくよ」と別れを告げたロンリー・ボーイ。自分から両親を「奪った」 妹が結婚、出産。生まれた男の子の育て方をじっと見ていたロンリー・ボーイ ―― 「人にバカにされないようにがんばるのよ」。

字面を追えばこの物語はありふれていてB級であり、親の育て方を別にすると、兄弟や姉妹を持つどこの家庭にもある光景を描写しているにすぎない。気が利いているが、創造的というよりも単に写実、切抜きなのだ。しかし、いざ音楽になった場合の<LONELY BOY>は、切抜きの退屈どころではない。アンドリュー自身が弾くピアノの熱量、ロンリー・ボーイを終始励まし、涙枯れるまで泣かせ、そのあとで鼓舞するバックのドラムス、ベース、パーカッション、キーボード、ギター。そのトリッキーなリズムが生み出す幻惑と冒険のサウンドは、彼の両親が正しく持つことのなかった、小さくて大きな愛情で満ちている。そこには、B級でないドラマがある。

「さよならママ !」「さよならパパ !」と彼が叫ぶ。後ろのソロ・ギターも一緒にむせびながらさまよう。そのフレーズはわざとそうしているかのようにつたなく、心細く、不安定で不恰好である。決別する16才の少年が聞こえる。がんばれ、という感じなのだ。「1969年のある冬、彼は家を出た」から始まる最後のヴァースでは、バックのリズムがそれまでとわずかに違っていることに気づく。曲を通して宣誓のように走る、どう聴いても前打ちのように聞こえる、実は裏打ちのピアノのリズムのわずかな合間に、ここしかないというタイミングで4回入るティンパニのような力強いベース打音がそれだ。年月を経たロンリー・ボーイ、子供であるがもう子供ではないロンリー・ボーイ。その覚悟と出立、飛翔。そのベース音は、それら全てへの祝福と守護、誇りである。

そのあれこれの音楽的要素は、曲を通してアンドリュー・ゴールドの過多でも不足でもない、同情を買うでも感傷的でもない、堂々として逃げない生身のヴォーカルと一体化している。この音楽では、歌唱と演奏とは分かち難い。<LONELY BOY>の活力と生命は、発売から30年以上経った今でも尽きていない。いま新しくこの曲を発見している人たち、それより前に知っている人たちにとって、この音楽のドラマは、演奏時間よりも持続するドラマである。B級ポップの誇り ―― それがこのドラマのもうひとつの含蓄であり、4発のベース音の響きの意味なのだ。

中野利樹 (TOSH NAKANO)🍀

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