それは60年代のある時期を、歌手としてではなく作詞作曲家として一世風靡したアメリカの歌姫、ジャッキー・デシャノン(Jackie DeShannon) の1964年の大ヒット出世作<When You Walk in the Room>の一節である。これはいわゆるサンプリングであり、二次使用、リユースなのだ。その再利用の一節、抜粋がオリジナルの<When You Walk in the Room>が曲全体を通じて伝えた事よりはるかにそれ以上のものを、そのたったの2行で伝える。そんなことが可能だろうか。
「あなたをどれほど想っているか / 心から / 伝えることが / できたら / いいのに」。= Wish I Could Show You How Much I Care ――、それはオリジナルの<When You Walk in the Room>から抜け出し、<Your Blessings>の新たな心臓、主題、プロポーズとなっていく。世の中にサンプリング音楽は無数にあるが、これほどに胸を打ち、締め付け、心躍らせ、震わせる素敵な転用は聴いたことがない。オリジナルの<When You Walk in the Room>を知っていようが、いまいがである。
EVERYTIME THAT YOU ――、あなたが○○するたびに――、オリジナルではWALK IN THE ROOMと続くそのフレーズをカットすることによって、<Your Blessings>の古くて新しいデシャノンは、好きな人が部屋に入ってくる時のドキドキやときめき以外のどんなことにでもその愛を、やさしさを分け与え続けることが出来る。聖母マリアのように。天空のディーバのように。それにもちろん、あなた自身の愛すべきあの人のように。
『今週のビルボード、トップ10には引退したかと思われていたあのジャッキー・デシャノンのかつてのヒット曲、<When You Walk in the Room>のセルフ・リメイク版が、、、失礼しました。Handsomeboy Techniqueなる日本人のDJ兼サンプリング・アーティストの<Your Blessings>が初登場です。ではその曲をどうぞ』―― そんな日がいつか来てほしい。<Your Blessings>にはその力と美しさ、資格がある。
僕らがそのアナウンスを聞く時。それがこの曲に残された、いちばん最後の至福、恵みである。その日がやって来るまで、幸運の数分間をもう一度。あるいは、この曲の中で永遠のガラテイアに生まれ変わったデシャノンがありったけの心を込めて歌い祈るように、Wish I Could Show You How Much I Care。