6. Spoon『Girls Can Tell』。
このCDを聴くと、たとえばビートルズのレコードを宝物のように大事に扱っていた小っちゃな自分、それに小っちゃな友だちが見える。「えーっと何だっけな、あのアルバム…」。2001-2003年の基準に照らすと、その「何」に当たるのがこれである。もちろんこの比喩は機能不全だ。なぜなら世界のぼくらは普通、ビートルズのアルバム名を思い出せないなんてことはないから。
9. Comet Gain 『Realistes』。
1976年にBlondieに加入しなかったデボラ・ハリーをフロントに据えた1967年のニュー・オーダー。そこに聴ける美学は35年を経たガレージ・パンクの美学の巧妙なひけらかしであると同時に、公の芸術運動として再作動し始めた「ニュー・サウンド・アート」の新たなる機能的道徳でもある。つまり、Everything New Is Old。
plus two:
11.ジョン・コラピント『著者略歴』(横山啓明 訳 早川書房 刊)。
野望に燃える作家志望の遊び人キャル・カニンガムは、ルームメイトの地味な苦学生スチュアート・チャーチが秘密裏に書いていた小説をある日盗み見てしまう。それは他ならぬキャルを主人公に据えた傑作だった。スチュアートはキャルが話していた喋りを書き留めていたのだ。一読するや激しく動揺するキャル。その矢先、新たなニュースがキャルを襲う。そのスチュアートが交通事故で死んだのだ。「これは自分の小説なんだ。自分の話が元なのだから…」。スチュアートの原稿を自分の名前で出版社に持ち込むキャル。「驚異の天才新人作家キャル」の誕生。突然の富と名声と栄光。すべてキャルが毎夜夢見たものである。しかし、そこに第3の人物である謎の女性が現われる…。少々擦り傷はあり、プロット自体に新奇な点はないものの、描写がたっぷりに肉付けしてくれるコラピントの小説第1作は、著者本人が言っているように、ページをめくる興奮という読書の初期衝動を思い出させる。
12.Marianne Faithfull <Sex with Strangers>。
Lipps Inc.の<Funkytown>、Trioの<Da Da Da>、Troggsの<Wild Thing>の3つを全部含んだ近年ただ1つのポップ・アンド・ダダ。同時にファンク・アンド・ダダでもある。このシングルのカヴァー写真はアルバムのものよりも幾分マン・レイ的だ。それはちょうど、絵の具で色付けされたレイヨグラフのように見える。